不当要求・悪質クレームへの企業の対応|初動と警察への相談

不当要求・悪質クレームへの企業の初動対応として、相手と用件の確認、複数人での対応と記録、即答・署名をしない、犯罪の疑いは警察への4点を示した図解

不当要求・悪質クレームへの企業の対応は、要求内容の妥当性と、要求の手段・態様の相当性の2点で線引きし、担当者ひとりに任せず組織で対応することが基本です。初動では相手と用件を確認し、複数人で対応して記録を残し、即答や書面への署名はしません。脅迫や居座りなど犯罪にあたる言動があれば、ためらわず警察に通報します。

「謝れば収まると思って対応を続けたら、要求がどんどん大きくなった」「どこからが不当要求なのか、現場で判断できない」。悪質なクレームへの対応は、担当者の経験や我慢に頼るほど長引き、従業員を追い詰めてしまいます。

2026年10月1日からは、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメントへの防止措置がすべての事業主に義務づけられました。この記事では、不当要求とカスタマーハラスメントの線引き、初動対応の基本、不当要求防止責任者の役割、警察・弁護士に相談する目安を、法令と公的機関の資料にもとづいて整理します。

この記事のポイント

  • 判断の軸は「要求内容に妥当性があるか」と「要求の手段・態様が社会通念上相当か」の2つ
  • 2026年10月1日から、カスタマーハラスメント防止措置が事業主の義務になった
  • 初動は、相手と用件の確認、複数人での対応、記録、即答・署名をしないこと
  • 暴力団などによる不当要求に備え、事業所ごとに不当要求防止責任者を選任し講習を受けさせる
  • 脅迫・暴行・居座り・金銭の要求があれば警察へ。法的な対応は弁護士や暴追センターに相談する

不当要求とカスタマーハラスメントの線引き

不当要求とカスタマーハラスメントの線引きは、厚生労働省のマニュアルが示す「要求内容に妥当性があるか」と「要求を実現するための手段・態様が社会通念上相当か」の2つの軸で判断します。要求内容に妥当性がない場合はもちろん、妥当性があっても暴言・威圧・長時間の拘束などの手段をとる場合は、正当なクレームの範囲を超えます。

区分要求内容手段・態様対応の方向
正当なクレーム商品やサービスの欠陥など、妥当性がある社会通念上相当事実を確認し、誠実に対応する
手段が不相当なクレーム妥当性はある暴言、威圧、長時間の拘束、繰り返しの電話要求には対応しつつ、手段は受け入れないと伝える
不当要求過大な金銭や土下座など、妥当性がない不相当なことが多い要求には応じず、組織で対応する
暴力団等による不当要求暴力団の威力を示した金品などの要求威圧、脅し警察と暴力追放運動推進センターに相談する

「不当要求」という言葉は、暴力団対策法上の暴力団員による不当な要求を指す場合と、一般の顧客による過大な要求を指す場合の両方で使われます。相手の属性によって相談先が変わるため、社内では両者を区別して対応方針を決めておきます。

正当な申し入れを最初からカスタマーハラスメントと決めつけるのは避けます。事実の確認を先に行い、要求内容と手段をそれぞれ見て判断することが、顧客と従業員の両方を守ることにつながります。


企業に求められている対策

企業に求められている対策は、2026年10月1日に施行された改正労働施策総合推進法にもとづく、カスタマーハラスメントの防止措置です。事業主は、対応方針の明確化と周知、相談窓口の設置、発生後の迅速で適切な対応などの措置を講じなければなりません。

改正法では、カスタマーハラスメントを「顧客等の言動であって、業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と位置づけています。電話やSNS上の言動も含まれます。

  • 方針の明確化と周知:カスタマーハラスメントには組織として対応すること、犯罪にあたりうる言動は警察に通報することなどを決め、従業員に伝える
  • 相談体制の整備:従業員が被害を相談できる窓口を設け、担当者を決める
  • 発生後の対応:事実を確認し、被害を受けた従業員に配慮し、再発防止に取り組む
  • あわせて行うこと:相談者のプライバシー保護と、相談したことを理由とする不利益な取扱いの禁止

東京都では、これに先立って東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が2025年4月1日に施行され、何人もあらゆる場においてカスタマーハラスメントを行ってはならないと定めています。事業者には、体制の整備や対応の手引きづくりの努力義務があります。


初動対応の基本

初動対応の基本は、相手と用件を確認する、複数人で対応する、対応の場所と時間を決める、やりとりを記録する、即答・約束・書面への署名をしない、の5点です。最初の対応で相手のペースに乗らないことが、要求の拡大を防ぎます。

STEP 1

相手と用件を確認する

氏名・所属・連絡先と、何を求めているのかを確認します。事実が確認できるまでは、非を認める謝罪はせず、不快な思いをさせたことなど対象を限った謝罪にとどめます。

STEP 2

複数人で、場所と時間を決めて対応する

相手より多い人数で対応し、出入口に近い応接室など、自社の管理下にある場所を選びます。対応時間をあらかじめ区切り、長時間の拘束を避けます。

STEP 3

記録を残す

日時、相手、発言の内容、対応者を記録し、可能であれば録音・録画します。第三者が後から検証できる記録は、警察や弁護士に相談するときの材料になります。

STEP 4

即答・約束・署名をしない

その場で金銭の支払いや特別な対応を約束せず、念書や謝罪文への署名・押印もしません。「社内で検討して回答します」と伝え、組織として判断します。

STEP 5

上司・窓口に共有し、退去を求める

現場の判断を超える要求は、時系列でまとめて上司や担当窓口に共有します。話が平行線のまま居座る場合は退去を求め、応じなければ警察に通報します。

トップは最初から対応しない

相手が「社長を出せ」と求めても、経営者がいきなり対応するのは避けます。トップが即答すると、その場で会社としての回答になってしまうためです。公的機関の対応要領でも、トップに対応させないことが基本とされています。


不当要求防止責任者の役割

不当要求防止責任者の役割は、事業所で暴力団などによる不当要求を受けたときに、対応の指揮をとり、警察や暴力追放運動推進センター(暴追センター)と連携して被害を防ぐことです。暴力団対策法第14条にもとづき、公安委員会が事業者に選任を促し、選任された責任者に講習を行います。

講習は都道府県の暴追センターが公安委員会の委託を受けて行うのが一般的で、選任後に受ける講習と、その後おおむね3年ごとの定期講習があります。暴力団対策法の概要、暴力団情勢、具体的な対応要領を、ロールプレイなどを交えて学びます。事業者には、通知を受けた講習を責任者に受けさせる努力義務があります。

  • 平時:対応マニュアルの整備、従業員への周知、契約書への暴力団排除条項の導入
  • 発生時:対応の指揮、記録の管理、警察・暴追センターへの連絡
  • 事後:経緯の整理と、警察・弁護士と連携した法的対応の検討

本サイトの執筆者である田丸誠は、不当要求防止責任者講習の修了者です。田丸が代表を務める株式会社誠・シークレット・サービス・コンサルティングは、悪質クレーマー・不当要求の未然防止に向けた危機管理コンサルティング、トラブル対応時の同席、クレームの初期対応の指導、刑事事件として司法に委ねる際の警察届出支援を業務として扱っています。


警察・弁護士に相談する目安

警察・弁護士に相談する目安は、脅迫・暴行・居座り・業務の妨害・金銭の脅し取りなど、刑法の罪にあたりうる言動があるときは警察、損害賠償の請求や接触の禁止など法的な対応が必要なときは弁護士です。暴力団などが関わる疑いがあれば、警察と暴追センターの両方に相談します。

相手の言動関係しうる罪名(刑法)法定刑
退去を求めても居座る不退去罪(第130条)3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
危害を加えると告げて脅す脅迫罪(第222条)2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
脅して土下座や謝罪文を強いる強要罪(第223条)3年以下の拘禁刑
大声や威圧で業務を止める威力業務妨害罪(第234条)3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
脅して金銭を支払わせる恐喝罪(第249条)10年以下の拘禁刑

緊急でない相談は警察相談専用電話(#9110)か最寄りの警察署へ、暴力団が関わる疑いがあれば警察署の暴力団対策の担当や、都道府県の暴追センターへ相談します。弁護士会には、民事介入暴力(民暴)の相談窓口を設けているところがあります。

相談の前に整理しておくもの

相手の情報、やりとりの日時と内容、録音や防犯カメラの映像、対応した従業員の名前を時系列でまとめておくと、相談先が状況を判断しやすくなります。客観的な記録があるほど、警察や弁護士は事件として扱えるかどうかを判断しやすくなります。

経営者や役員への接触が続き、身の安全に不安がある場合は、身辺警護を組み合わせる方法もあります。詳しくは身辺警護とは?依頼できる内容と流れをご覧ください。

よくある質問

Q不当要求と正当なクレームはどう見分ければいいですか?

不当要求と正当なクレームは、要求内容に妥当性があるかと、要求の手段・態様が社会通念上相当かの2点で見分けます。要求内容に妥当性がない場合や、妥当性があっても暴言・威圧・長時間の拘束などの手段をとる場合は、正当なクレームの範囲を超えています。

Qカスタマーハラスメント対策は企業の義務ですか?

カスタマーハラスメント対策は、改正労働施策総合推進法により2026年10月1日から事業主の義務になりました。事業主は、対応方針の明確化と周知、相談窓口の設置、発生後の迅速で適切な対応などの措置を講じる必要があります。

Q悪質クレーマーに居座られたら警察を呼んでもいいですか?

悪質クレーマーに退去を求めても居座る場合は、警察に通報して構いません。退去の要求に応じない行為は刑法の不退去罪にあたる可能性があり、脅迫や暴行、大声で業務を止めるなどの言動があれば、脅迫罪や威力業務妨害罪にあたる可能性もあります。

Q不当要求防止責任者は必ず選任しなければいけませんか?

不当要求防止責任者は、暴力団対策法第14条にもとづき公安委員会が選任を促し講習を行う仕組みで、事業者には通知を受けた講習を責任者に受けさせる努力義務があります。暴力団などによる不当要求の被害を防ぐため、事業所ごとに選任しておくことが勧められています。

Q悪質クレームの対応で謝罪文や念書を求められたらどうすればいいですか?

悪質クレームの対応で謝罪文や念書への署名を求められても、その場で書いたり署名・押印したりしないのが基本です。「社内で検討して回答します」と伝えて持ち帰り、必要であれば弁護士に相談したうえで、組織として対応を決めます。

不当要求・悪質クレームへの備えを相談したい企業の方へ

執筆者が代表を務める株式会社誠・シークレット・サービス・コンサルティングが相談を受け付けています。いま危険が迫っている場合は、110番に通報してください。

03-5724-3994株式会社誠・シークレット・サービス・コンサルティング

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この記事を書いた人

田丸 誠のアバター 田丸 誠 株式会社誠・シークレット・サービス・コンサルティング 代表取締役

元千葉県警察官。警察OB主体の危機管理会社で上場企業経営者の身辺警護やストーカー対策を担当したのち、株式会社誠・シークレット・サービス・コンサルティングを創業。千葉県警察および警備会社で2,000件を超える案件数と現場経験を持つ。JSSC認定 総合危機管理士(安全保障危機管理士)、警備員指導教育責任者(1号・4号)。